以前から電波利権なり、テレビ業界の状況、それに加えてネットとの覇権争いのようなネタで数々の書籍が出版されてきています。しかしながら、テレビCMという広告の視点から切り込んだ書籍は、流行性もあり将来性がある分野だと思う。
どうやら世間的なインパクトも大きいようで、いろいろな場所で書評も出ているので内容については端折らせていただこうと思う。そうでなくても、この書籍は付箋紙だらけになっており、いったい何をこの場で発信しようか悩んでしまう。
1.大きな流れはわかる、しかし強い危惧
『テレビCM崩壊』という本書のタイトルは、いろいろな意味に解釈できる。
・テレビCMは死んでいる
・テレビCMはなくなってもマーケティングは続く
・テレビCMは、もはや黄金のスタンダードではない。テレビCMに代わる様々な手法が出現している。これらの新しい手法は、消費者との繋がりやコンテンツの機能において有利であり、ブランドの再構築に役立つ
・新しい技術を駆使することによってのみ、テレビCMの生き残る道はある。様々なCM素材を次々に出すことや、DVRなどを使ってコマーシャルを止めること、行動分析型ターゲティング、オンデマンド広告(AOD)などいろいろアイデアはある。しかし、テレビCMを守るには少し遅すぎた感もある。
ここだけをピックアップすると、共感できる。
別の箇所で「テレビはキラーアプリではない。ビデオこそがキラーアプリである。」と言われている。“キラーアプリ”という表現がどうもしっくりはこないのだが、これも体感している。TiVoこそ使ったことはないが、今はSONYのtypeXを使用しているから。
それでもどこかにしこりが残る。それはたぶん次の理由。
・テレビCMのプラス部分に触れてない
・コンテンツ制作は現在TVがメインであることに触れてない
・TV業界が息を吹き返すストーリーが何もない
2.納得できる“クチコミ効果”しかし
アップル社のテレビCM「1984」以降、続くヒットがないのはなぜか <中略> クチコミ効果こそが、実はテレビ・コマーシャルの真の価値なのであり、この効果がなくなったのがその原因なのである。
確かにクチコミ効果は薄まってきている。実感として、昔に比べてヒットCMについて会話が出来なくなってきている。なにせ、お互いにもっているチャネルが違うのだから、仕方ない。
それはそれとして、こう捉えることはできないのだろうか。
・SNSなどのコミュニティ発達により、同一、同種コンテンツを視聴するコミュニティが増加し、クチコミ効果により確実性のある相乗効果が期待できる
3.広告の本質とは何か
勝手に思うこととすれば、テレビCMは広告手法の一つであり、「イメージを伝えることに特化した」広告ではないだろうか。特に企業イメージを伝えるのにもってこいの媒体だと思う。
それこそROI(対費用効果)が測れないとして捨てられてしまっているのだろうか。それは個人的にはさみしい結論だ。
4.消費者はかしこくなるのか?
本書の中で、ひたすら消費者はかしこいと連呼されている。消費者を再考する章では、筆頭に「教義その1 今日の消費者は情報通である」とされる。
だとしたら。
広告なんて(極論)一切いらないのでは。広告に惑わされなくなるのであれば、いかに広告で表面を繕ったとしても判断基準は中身。
良いものは宣伝しなくとも売れていく世界になるということ。
5.というわけで?
良いことを書かなかったけれども、これが個人的な気持ち。この否定が危険すぎないか?ということ。前提として、アメリカのテレビ事情と日本のテレビ事情が異なるだろうし、そこを完全に重ねてるが故のしこりなのかもしれないが。
ただ、第三部の「10の新しいアプローチ」はとても面白い。今後の広告の可能性をあっさりとまとめてくれていると思う。
ところで、橋本さんのブログ「
情報考学 Passion For The Future」で、本書の書評が入った後に共感できるエントリーが。
懐かしのCMソング大全
CMスキップでテレビCM崩壊などとも言われるけれども、それを聴いて育った世代にとってテレビCMはひとつの文化であることも事実。
そうなんですよね。私もそう思います。たぶん僕のしこりの幾分かは、こういった感情から産まれたのだと思います。
参考)
[テレビCM崩壊] 第一部 テレビCMの問題の部分をオンラインで立ち読みできます(
Ad Innovator)
テレビCM崩壊 マス広告の終焉と動き始めたマーケティング2.0
Joseph Jaffe, 織田 浩一